お兄様はまだ小さいわたくしの肌にその入れ墨が彫られている時、俯き肩を震わせて固く拳を握りしめながら血を吐くように
『俺はお雪を守る』
と言っていました
その日から、兄はまるで鬼のように剣をふるい
今では近辺の道場では敵無し
江戸でも屈指の剣豪となりました
大好きな人にそのように想われ、良くしてくれる人が側にいる毎日にわたくしは不満などはございません
ただ、外の世界を知らないことは少し寂しく思うときがございますけれど、みうさんがいつも持ってきてくださる外の世界のお話しがわたくしをいつも楽しませてくれます
背中を拭く手が再開したみうさんの口から、わたくしの楽しみが話されます
それは最近お気に入りの、町で評判だと噂の駄目な泥棒さんのお話し
見たことはない泥棒さんの活躍が外の世界を知らないわたくしの胸を踊らせます
背筋を伸ばして慄然と話しをするみうさんは、まるで噺家のようです
残念ながら見たことはございませんが(>_<)
枕を置いて、面白おかしく弁を立て、ときに神妙にお話しをする内容に、わたくしはいつも身を乗り出して聴き入ってしまいます
聴き終わったわたくしの体は上気して夏の夜の夢のように、ほってりとした感覚を残しつつ、軽い興奮状態にありました
ふと月を見上げようと開け放った窓を見たとき、
踊るような人影が三つ、一陣の風の如く通り過ぎていったのです
それを見ようと窓の外に身を乗り出したそのとき!
一際大きな影がわたくしの目の前を通り過ぎていきました
屋根瓦を踏み鳴らし、跳んだ体を十文字にして町へ消えようとする刹那のきらめき
まるで時が止まったかのようにわたくしの目には写りました
月光を浴びたその十文字(足はすでにがに股になって、まるで笑ってるように見えます)の影は町の風景と同化した一枚の浮世絵のごとく大層に美しかったのです
傍らでみうさんが言います
『あれが日ノ本駄右衛門ですよ』と
あの方が駄目だ駄目だと言われている駄目衛門様...
背中だけですが、そのようには見えませんでした
もう一度、お会いすることはできないでしょうか
わたくしは月夜の町並に十字の残像を想い、知らず知らずのうちに両手を合わせ祈りをこめていました
『俺はお雪を守る』
と言っていました
その日から、兄はまるで鬼のように剣をふるい
今では近辺の道場では敵無し
江戸でも屈指の剣豪となりました
大好きな人にそのように想われ、良くしてくれる人が側にいる毎日にわたくしは不満などはございません
ただ、外の世界を知らないことは少し寂しく思うときがございますけれど、みうさんがいつも持ってきてくださる外の世界のお話しがわたくしをいつも楽しませてくれます
背中を拭く手が再開したみうさんの口から、わたくしの楽しみが話されます
それは最近お気に入りの、町で評判だと噂の駄目な泥棒さんのお話し
見たことはない泥棒さんの活躍が外の世界を知らないわたくしの胸を踊らせます
背筋を伸ばして慄然と話しをするみうさんは、まるで噺家のようです
残念ながら見たことはございませんが(>_<)
枕を置いて、面白おかしく弁を立て、ときに神妙にお話しをする内容に、わたくしはいつも身を乗り出して聴き入ってしまいます
聴き終わったわたくしの体は上気して夏の夜の夢のように、ほってりとした感覚を残しつつ、軽い興奮状態にありました
ふと月を見上げようと開け放った窓を見たとき、
踊るような人影が三つ、一陣の風の如く通り過ぎていったのです
それを見ようと窓の外に身を乗り出したそのとき!
一際大きな影がわたくしの目の前を通り過ぎていきました
屋根瓦を踏み鳴らし、跳んだ体を十文字にして町へ消えようとする刹那のきらめき
まるで時が止まったかのようにわたくしの目には写りました
月光を浴びたその十文字(足はすでにがに股になって、まるで笑ってるように見えます)の影は町の風景と同化した一枚の浮世絵のごとく大層に美しかったのです
傍らでみうさんが言います
『あれが日ノ本駄右衛門ですよ』と
あの方が駄目だ駄目だと言われている駄目衛門様...
背中だけですが、そのようには見えませんでした
もう一度、お会いすることはできないでしょうか
わたくしは月夜の町並に十字の残像を想い、知らず知らずのうちに両手を合わせ祈りをこめていました